「長生き」誇れ 日本独自の高齢社会モデルを(産経新聞)

 少子化が進むに伴い、街を高齢社会に対応した形に作り替えることも急がれる。どこから取り組めばよいのか。東京大学高齢社会総合研究機構の秋山弘子教授に聞いた。

 −−日本が直面する高齢社会の課題は

 「これからの高齢化は都市部で非常に顕著になる。首都圏が急速に高齢化するし、地方も県庁所在地のような都市が高齢化する。これからの問題を考えていくときに、まず都市部にどう政策介入するかを考えないといけない。もちろん農村も限界集落をどうするか課題なのだが、長期的に考えればこれからの高齢化の問題は都市の問題であると言っていい」

 −−具体的には

 「私が約20年前からやっている高齢者の全国調査の中で、健康状態の自立度、自立して生活できるかどうかを調べている項目がある。それをみると、だいたい男性の場合、2割の人は70歳になる前に急に心臓病や脳卒中などで亡くなり、1割の人が80、90歳でもずっと自立している。多数派の7割の人は70代半ばぐらいまでは自立できるのだが、そこから少しずつ電球が替えられなくなるとか、重いものを持って帰れなくなるとか、徐々に自立度が下がっていく。女性の場合は、1割強の人が男性と同じように70代になる前に亡くなるか寝たきりになるが、9割近い人が70代前半から男性よりも緩やかな形で衰えていく。足腰が弱りながら長生きして、寝たきりになったりはしない」

 −−調査結果から言えることは

 「調査の結果、見えてくる課題は2つある。一つは自立度が落ち始める年齢を2年でも3年でもいいから遅らせて、健康寿命を延ばす。そして、その人たちが社会に出て働く、生産活動に関与する環境をつくる。もう一つは、男女合わせて8割の人は70代半ばから少しずつ弱ってくるのだが、ちょっと助けがあれば普通の生活が続けられる。こういう人たちが安心して自分らしく生きられるような生活環境をどう整えるかが重要になる」

 −−機構の取り組みは

 「千葉大の広井良典教授が『地域密着人口』という考え方を提唱している。住んでいるところに朝から晩まで生活している人のことで、これはだいたい子供とお年寄りだ。今後子供は減るが、リタイアする高齢者は増えるから、全体でみると地域で多くの時間を過ごす人は増えていく。だから、これから政策介入するのならば地域社会に介入するのが手だと思う。

 そこで私たちの機構では、首都圏の千葉県柏市、地方では福井市で、高齢社会に対応した街に作り替えるための社会実験を実施している。一つは、多くの高齢者が大病院志向で病院がパンク状態なので、地域で医療が受けられるような在宅ケアのシステムを進めている。そのためには住宅もバリアフリーになっていないといけない。

 柏市の場合、豊四季台団地という東京オリンピックの年に入居が始まった公団住宅がある。そこの高齢化率が現在35%くらい。2030年の日本全体の高齢化率と同じなので、そこをまず社会実験のフィールドにした。豊四季台団地は5階建てでエレベーターがない建物がずらっとたっている。地方から仕事を求めて上京した若い人たちのベッドタウンとして開発されたのだが、今は建物も老朽化し、住んでいる人も高齢化している状態だ。そこの団地の真ん中に在宅ケアのクリニックを作るということをやっている」

 −−在宅ケア以外の取り組みは

 「80とか85歳くらいまで地元で働ける場を作ろうとしている。それをリタイア後のセカンドライフの就労モデルにしたい。柏の人たちは『柏都民』といわれていて90%くらいの人が昼間は都内で働いている。そういう人たちがリタイア後に柏へ戻ってくると、ルーツもないし、明るい時にあまり柏にいたことがないので、何をしていいか分からなくなる。60代でリタイアしてもまだ元気だし、知識や技術、ネットワークを持っているが、何をしたらいいか分からないから外出もせず、奥さんから迷惑がられるという状況だ。これは個人の健康によくないし、社会としても非常に大きな社会資源のロスだ。

 私が言っているのは、石油や水、森林などの自然資源がどんどん枯渇していく中、唯一確実に増大するのが高齢者だが、それはすごく大きな社会資源でもあるということ。フル活用することが必要だ。高齢者自身もできれば働きたいと思っている。ただ、高齢者を家から外に出そうと思って行政が一生懸命『地域デビューセミナー』なんかをやっているけれども、そんなものには誰も行かない。やはり一番出やすいのは働く場所があるということだ」

 −−働く場所をどう作るのか

 「多くの人に話を聞くと、今までみたいにフルタイムで働くことは必ずしも望んでいないし、体力的にもできないと感じている人が多い。だから、地元で歩いていける、または自転車に乗っていけるぐらいの距離に働く場所を作るのが一つ。それと、リタイアしたら旅行したいとか、趣味の活動をしたいという希望があるわけだから、そういうことをしながら働けるようにする。70歳を過ぎると少しずつ身体や認知の機能が落ちてくるので、働くのを週3日にするとか自分の健康状態に合わせて働ける就労形態を作りたい」

 −−具体的アイデアは

 「いま考えているのは都市型の農業。団地の屋上が広いので、そこを農園にしようとしている。朝の5時から8時まで働いて、8時以降は自分の好きなことをやるのもOK。団地から歩いて10分くらいのところに川沿いの休耕地があって、そこも農園にできそうだ。建て替え前で空いている団地の部屋に野菜工場を作る構想もある。人手はたくさんあるから、手間をかけて付加価値の高い野菜を作ることで事業として成り立たせる。事業化すれば栽培する人だけでなくて、企画をする人や営業する人、流通の責任者だとか、いろんな人が必要になってくるので、リタイアした人の知識をフルに活用したい」

 −−外国に高齢社会を乗り切るモデルは

 「ないと思う。今までは北欧の国がある程度高齢社会のモデルになってきた。これらの国は税金をたくさん取って安心して暮らせる社会を作ってきたが、今は高齢化、特に75歳以上の後期高齢者が増えて、もうこれ以上税金を上げることができなくなっている。民間の力を導入する方向にシフトしているが、そういうやり方に慣れていないから『日本に学びたい』というふうになってきた。

 アメリカは全部民間でやる方式だが、日本やカナダ、オーストラリアはその中間。日本は医療保険も介護保険も財政的な側面では国がやっているが、サービスを提供する部分は民間がやって選べる仕組みになっている。官と民が一緒にやるモデルだ」

 −−日本独自のモデルを作るということか

 「外国から見ると、日本の平均寿命が長くて健康寿命も長いというのは、何だかんだ問題はあっても、うまくやっていると思われている。高齢化の問題は公害なんかと全然違う。私たちがすごく努力して、研究費もものすごく投入し、個人もいろんなことに気を付けた結果として長生きできるようになった。そういう意味で誇るべきことだ」

 −−日本はどうすべきか

 「日本は世界一の長寿国で高齢化率も一番高い。その日本がこれからの課題をどう解決していくのかというのは世界中が注目している。そこに先進的なモデルを出していくというのはとても重要で、日本が世界に貢献できる一つの領域だと思う。これから日本では後期高齢者がかなり増えるが、そのような社会で必要なモノやサービスはまだ作られていない。そこには大きなビジネスチャンスがあるわけで、マーケットは日本だけでなくすごく大きい。今後他の国も高齢化率が上がり、後期高齢者が増える。そこにモデルを示して、高齢社会に対応したインフラやモノ、サービスを提供していけば日本はリーダーシップが取れるし、活路も開けることになるのではないか」

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